ヘルシンキ大学脳神経外科 Microsurgery Live Demonstration Course

毎年6月の第1週に開催されるヘルシンキ大学での脳神経外科手術教育コースというものがあります.世界中の脳外科医の中では,知らない人はいない有名な脳神経外科手術の教育のための学会です.この学会は2001年にヘルシンキ大学脳神経外科教授のJuha Hernesniemi先生が開催してから,今年で18回目を数える歴史のある教育的な学会で,私は2010年にHernesniemi教授から請われて参加しています.今年は40名ほどの若手脳外科医が世界中から参加し,講師として私の他には,米国Barrow Neurosurgery InstituteからMichael Lawton教授,Arcansas Ali Krischt教授,チューリッヒ大学 Luca Ragli教授,Berlin Sharite大学からPeter Vajcozy教授が招かれ,ヘルシンキ大学現教授のMika Niemera先生とともに,担当症例の手術を参加者の先生方に実際に見学してもらい,その後解説と術式な手術技術,手術解剖について詳細に議論を行います.

今回私が手術をデモンストレーションしたのは,もやもや病,再発巨大脳動脈瘤,未破裂脳動脈瘤などの病気で,禎心会病院で手術を行うのと同様に術前に患者さんとその家族と会って,術前の説明を行って必要な手術を行います.英語が話せる患者さんの場合は,いいのですが,理解が不十分になる場合には現地語でヘルシンキの先生方が通訳をするスタイルで術前のインフォームド・コンセントを行います.

特に毎年,私に頼まれる症例は,通常の術式では対応不可能な,過去に何度か手術を受けたにもかかわらず,再発してしまった高難度の脳動脈瘤の患者さんが多く,かなり神経を使います.日本とヘルシンキの時差は夏はー6時間ですので,さほど大きな時差でもないのですが,夕方はすでに日本の真夜中だと考えると少し慣れるのに時間がかかります.1週間はちょうど時差が解消されつつある頃に帰国することになります.今年は当院からは助手として太田仲郎先生と橋本集先生についてきてもらいました.彼らにとっても海外での手術の助手は貴重な経験になったはずです.術中はすべて英語での指示をしながら,麻酔科医,直接・間接介助の看護師さんと協力して手術を行います.幸いにもフィンランド人はほとんどの人がよく英語を話せるので,コミュニケーションは円滑に進めることが出来ます.

当然の事ではありますが,各脳外科医によって受けてきた手術教育は全く異なるので,同じ病変を手術するにしても,それぞれやり方が異なり,使う手術道具も全く違うため,多くの参加者の先生方はそれらの違いを目の当たりにして,自分が何を吸収すべきなのか,今後何を勉強し習得すべきなのかをこの学会の1週間で感じて帰ることになります.今年は日本からは3名の若手の先生方参加しており,彼らもまた何かを感じて帰国したものと思います.

 

左から,橋本集先生,谷川緑野,太田仲郎先生

参加者全員が注目した再発巨大脳動脈瘤術後のディスカッション.私がMichaelの質問に答えています.